A:赤錆の狩人 オルクス
アントリオンには、猛禽類などの天敵が多く、本来は、地中に潜んで狩りを行うのだが、「オルクス」は違う。
自ら地表に姿を晒し、獲物を求めて探し回るのだ。それも当然のこと……。ヤツは鋼も溶かすという、強力な分泌液を体内で生成し、噴射する能力を有しているのだよ。
噂では、ヤツが、そのような能力を発揮しはじめたのは、賢者の木周辺で、狩りをするようになってからだという。
何か、突然変異を起こす要因でもあったのだろうか?
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ガレマール帝国軍の拠点を守護するバエサルの長城と呼ばれる横に延々と続く高く長い防壁がある。これに沿うようにこれまた横に長く広がるイーストエンド混交林と呼ばれる森がある。この森はエオルゼアのほかの森に比べて広葉樹が多く、緑色の葉に混じり紅葉したように赤や黄色の葉があって目にも鮮やかだ。
またこの森の中を流れるティモン川という小川はイーストエンド混交林を抜け、夜の森の辺りからで湿地帯を形成している。夜の森はその湿地帯の湿気の影響で一年中薄くなったり、濃くなったりする霧が漂い、薄暗くなっている。
その夜の森とイーストエンド混交林との丁度中間に賢者の木と呼ばれる不思議な大木がそそり立っている。樹齢の想像が難しいその木はクリスタルらしきものをいくつかその根に抱き込んでいて、それがうねった波のように地上に現れている。
「どう?なにか感じる?」
相方がすぐそばの根の上からあたしを覗き込むようにして声を掛ける。
相方もいわゆるキャスター職はこなせるのだが、あたしほど専門的に魔法に接していないので、今回はあたしが調べてみることにしたのだ。
あたしは丁度根っこが分岐する部分、その木の股の間にあるクリスタルを調べていた。クリスタル自体からはおかしな反応は感じない。ただ、なんだろう、感覚的に若干の違和感を感じた。何かに対して肌が擦れるような、それとは別に全身が圧迫されるような…。
考え込んでいるあたしの上を大きな影が通過した。見上げると一匹のグリフォンが空中に大きく円を描くようにして減速しながら舞降りてきていた。
グリフォンとは猛禽類の頭部と鉤爪の足、羽毛に覆われてはいるが獅子のような締まった体、それに大きく力強い翼を持っている大空の覇者ともいわれる魔獣だ。その雄々しくて神々しい姿は貴族名門家の紋章に描かれることがよくある。魔獣の中でも知能が高いグリフォンは幼いころから躾ければ騎乗用の魔獣とすることができ、その雄々しくて神々しい姿から王族や貴族から絶大な人気がある。あたしもいつかはグリフォンを飼育しその背に乗って飛んでみたいと夢想する程度には憧れる。
その騎乗用グリフォンの飼育調教にかけてはエオルゼア随一の名門と言われるのがバックスタイン家であり、今飛来したグリフォンに乗っているのはその本家バックスタイン家に闘争心を燃やし、追い抜いて名門の名を奪ってやろうと励む分家の牧場の主だった。
「お嬢ちゃんたち、どうだい?何かわかったかい?」
グリフォンの背から飛び下りながら軽い調子で彼は言った。
そもそも今回、何故この賢者の木を調査しているのかといえば、この賢者の木に魔物を変異体にする力があるのではないかと彼が言いだしたからだ。彼が根拠として挙げたのは例えば、賢者の木があるイーストエンド混交林には惜しくもあたしの事を仕留めそこなった巨大蜂アールがいた。
さらにこの賢者の木周辺で成長したという大型アリジゴク、アントリオンが彼の育てたグリフォンを捕食したという。これは知る人が聞けば驚くべき大事件だ。本来アントリオンはギラバニア産グリフォンのポピュラーな餌とされてきた。そのアントリオンが逆に猛禽類捕食した、つまり自然界の不文律である食物連鎖がどういう訳か逆転したということだ。もっと簡単な例えで言えば「鶏が人を食った」のだ。
根本原因を掴みそれを排除しなければ、今後グリフォンの飼育が困難になるだけではなく、いつまでも変異体による事件が繰り返すことになりかねない。
「これといった原因はまだ分かんないのよね…ただ」
あたしは違和感があることを言おうとしたが、うまい表現が見つからず、言葉にならず小さく唸った。
その時、ほんの僅かに地鳴りのような音がした気がしてあたしは周りを窺った。
その次の瞬間、地面がガクガク揺れ、唸りを上げると牧場主を下ろした後大人しく待機していたグリフォンがズルズルと地中に吸い込まれ始めた。驚き、怯えたグリフォンは後ろ足で立ち上がり翼をばたつかせ飛び上がろうとする。すると地中から細く、長く節があるヌンチャクのようなものが2本天に向かって突き立ったかと思うとグリフォンを抱きしめるように掴んだ。
「くそ!オルクスか!」
牧場主はよろめく足で退避しながら叫んだ。
瞬く間にグリフォンは身動きできなくなり、虚しく首や翼を動かして藻掻く。地中から姿を現したその巨大昆虫はクワガタのように鋏になった顎でグリフォン強く挟み込む。
大きい。頭部から胴の先まで長さ5m、長い足を除けば恐らくは幅2mくらい、体高さは3mくらいだろうか。あたしと相方は武器を構えながらオルクスの前後に展開する。あたしは状況を見ながらゆっくりと流れるような詠唱を始めた。
牧場主は地面から手頃な石を拾い上げるとオルクスに向かって投げつけた。が、堅い甲殻に弾かれた。
「くそおおおお!俺のグリフォンをかえせぇぇ!」
牧場主の叫び声がイーストエンドの森に虚しく響いた。